神栄化工株式会社は、靴の底材一筋、靴産業の重要な一部門を担う専門メーカーとして歩んでこられた。主に国内大手の靴メーカーに向けて製品を提供している。
安価な海外生産品に押され、国内生産の履物類の売り上げも近年伸び悩みを続けている。代表取締役の室田氏は、従来からの典型的な受注生産型製造業に加え、自社のオリジナル製品を作り、一般消費者に向けて発信する直接販売にも乗り出したいと考えていた。素材開発で補助金を受けたときに関わりができた中央会から送られてくるメールマガジンで、新商品開発をテーマとしたセミナーが開かれることを知り、営業部部長の南部氏に参加を促すこととなった。
靴底の意匠デザイナーからの提案もあり、ゴム底に穴を開けて紐を通せるようにすれば、クラフト向けの素材として売り出せるのではないかと模索を始めた。どうしたら商品化できるのか?誰が買ってくれるのか?どこで売ればよいのか?一般消費者向けの商品開発は未経験分野である。何もないところからの手探りだった。
一任された南部氏は、ネットなどを活用して情報を収集し、リストアップした手芸教室を訪ねたり、知人の紹介で老舗手芸材料店を訪ねたりと独自に市場調査を行った。得た人脈から社外協力者とチームを組み、サンプルを作り改良を重ねた。まずは、足を覆う部分の素材や作り方のレシピも含めたキットとして販売することが選ばれた。
中央会尾崎からは新商品開発セミナーの講師でもあったコーディネーターを紹介された。商品の目利きや販路開拓、商品企画やブランディングの専門家たちだ。今は、体制やツールなどの営業戦略を練りつつ、機会あるごとに展示会やギフトショーなどに積極的に出店し、露出を強化しているところだ。
合わせる素材、価格設定、ターゲットの年代設定などまだまだ開発途上だが、ネット通販や通販カタログへの掲載も決まっており、今後は素材としてのパーツ売りや自社からの直販も視野に入れている。
技術の向上や素材の開発にも熱心で、木材由来の天然素材として注目されている『セルロースナノファイバー』を用いた環境にやさしいゴム材料の開発にも力を入れている。また、靴底を選んで作れるオーダーメードの靴の構想も進めている。言わば黒子の存在である靴底だが、まさしく縁の下の力持ち、その役割は重要だ。軽量で高機能な靴底の存在を認知してもらい、このメーカーの底で靴が欲しいと指名してもらえるまで試みは続く。