手延そうめん「揖保乃糸」の販売方法は特徴的だ。兵庫県手延素麺協同組合が「揖保乃糸」の全生産者を組合員として束ね、商品管理、流通、販売のすべてを担い、ブランドの維持と生産者の保護を行っている。組合の管理のもと、販売は特約販売店として認定された会社のみが行なうことができる。菅哉物産株式会社は、その400軒を超える組合員のうち、地元生産者の中では約15軒しか認定されていない特約販売店として、自社での販売を許されている。
これまでも、国立博物館とのコラボで見返り美人の絵をパッケージに取り入れた商品や、広島東洋カープとコラボしたマスコットキャラクターを印刷した紅白のパッケージ商品など、果敢に商品開発を行ってきた。その同社が、2020年、法人設立から80周年の節目の年を迎え、プロジェクトとして初めての自社ブランド新商品の開発に取り組んだ。販売特約店として、そうめんの新たな可能性創出に力を尽くしたいという思いを形にする試みだ。熱い思いをどのように発信されているのだろうか。広報を担当されている営業部課長の菅野さんに話を伺った。
冷やしてそうめんつゆで食べる以外の食べ方を浸透させたい。もっと若い人にも食べてもらえるような商品を送り出したい。そうめんの可能性を広げたい。「新たな麺文化の創造」を掲げるプロジェクトは、夏だけでなく年間を通じて食べたいそうめんを目指し、商品名やパッケージデザイン、伝え方、見せ方など、社外のデザイナーやコンサルタントも交え、何度も何度も話し合い、1年をかけて進められた。
できあがった「揖保乃糸 熟成ごち素麺つゆ三撰」は、モダンで高級感のあるデザインとネーミングで手延そうめん特有の「熟成」をアピール。地元の老舗醤油醸造企業へ依頼して開発した3種のオリジナルつゆ、試しやすい個食パック、商品パッケージからQRコードを読み込むとレシピが見られるしかけ、など新しい形で新しい食べ方を提案するものとなった。
自社ブランドの新商品を世に出すにあたり、これまで自社としての広報活動はほとんどしてこなかったため、どのように宣伝をしていくのか、発信力を強化する必要にせまられることになる。
そんな中、中央会が毎年行っている「プレスリリースセミナー」を知り、参加することに。セミナーでは、いかにお金をかけずに、しかも効果的にメディアへ向けて発信するのかを一から学ぶことができた。テレビ局やラジオ局、新聞社や雑誌社などへ効果的な告知をするには、どんな部署のどんな肩書の人に対して、どんな文章を書いてどのように送ればよいか、その全行程を丁寧に教えてもらえ、希望すれば個別に相談、指導も受けることができる。ターゲットとするメディアを選び、練習を重ね、実際にプレスリリースを行うまでサポートを受けることができた。
新商品発売に先駆けて、タイミングよくセミナー参加者の中から8社限定で実践の場として提供される共同記者発表会にも参加できた。大変な緊張だったと聞いたが、コロナ過での開催であり、リアルとオンライン双方で展開された発表会では、新商品を効果的に発信することに成功した。
合同記者発表会の反響は、業界紙や一般紙など多くのメディアに掲載されただけでなく、ご近所さんや取引先にも及んだ。その結果、社員の一層なる士気アップにも一役買うこととなった。合同記者発表会でのプレスリリースの後も、クラウドファンディングを利用したり、人気サイトのオンライン展示会に参加したり、facebookやインスタグラム、noteなどのSNSを使ったりと独自に発信を続けている。ネットでの記事にも取り上げられ、反響は上々だ。
広く知ってもらうために、情報発信は継続することが大切だという。春から夏にかけては好調に売り上げるそうめんだが、秋冬は需要が少なくなる。その対応にもしっかりと取り組み、新商品を武器に、四季を通して食べるおいしさを伝えていきたい。今後も、見せ方、売り方に工夫を凝らし、会社を挙げて手延そうめんの魅力と食べ方を発信し続けていく考えだ。
菅哉物産株式会社が運営されている販売サイト「山海庵」
https://jyukuseisoumen.net/