兵庫フード協同組合は、食糧管理法が敷かれていた時代、地元農家の米を集荷流通させることを目的に設立された。このたび、酒米として有名な「山田錦」を食べようというプロジェクトを立ち上げられたという。代表理事の谷郷さん、そしてプロジェクトの中心的役割を担われている井澤さんにお話を伺った。
山田錦は大粒で、酒米に必須の「心白」(しんぱく)と呼ばれる隙間の多い部分がしっかりあるのが特徴である。兵庫県で誕生し、兵庫県で産出され、酒造好適米として君臨してきた。中でも、同組合擁する北播磨の吉川、口吉川、東条は、特A地区と認定され、品質の高さで他産地とは一線を画している。
1995年(平成7年)、新しい食糧法の施工により米の流通が自由化されると、同組合は山田錦の集荷に力を入れることになる。
90年代の日本酒ブームなどもあり、酒米として優秀で高く売れる山田錦は全国に産地を広げることとなる。品質の良くないもの、安価なものが市場にあふれ、特A地区を誇る同組合でさえ余剰米が出たこともあったという。高品質なものはずっと求められ続けているのに、減反政策の対象になるという悲しい事態も。このままではいけないと、主食米としての活用が検討された。食糧管理法以前は普通に食用とされていた時代もあったのだ。
主食としてアピールするなら動画を使おう!前代表理事である井澤さんの父上の発案から中央会へ相談が持ち掛けられた。動画を見て興味を持ってくれた人に向けては、コンテンツのしっかりしたホームページも必要となる。それならIT導入補助金を利用しましょうとアドバイスを受けた。さらに、どういうストーリーで誰に向けて訴求するのか、その方法は山田錦にふさわしいか…話し合いが重ねられた。プロジェクトの始動である。
この問いかけは、酒米の雄「山田錦」を食べるという意外性で興味を引き、おいしくないという風評を覆すのが狙いだ。山田錦は精米された食用の米として流通していないため、通常口にすることはできない。それなのにまずいと言われているらしい。では、何を食べての風評か?それならば実際においしく食べてもらうしかない。
隙間の多い心白には味がしみこみやすいという点を活かし、大手寿司チェーンへ卸すことを視野に、寿司飯への利用が考えられた。だが、それだけではほかの米の代替品として使われるだけで、買いたたかれて値崩れを起こしてしまう。
ブランド米なのだから、それにふさわしい一流のシェフにお願いしてメニューから考えてもらおう。中央会 巽のアドバイスで、連携組織活路開拓調査・実現化事業の採択を受け、ホテル「ラ・スイート神戸」とのコラボレーションが実現した。
プロジェクトはテレビ放送やYoutubeなどで拡散され、大きな反響を呼んだ。ホテルで開催した試食会も大盛況であった。動画を見た人は、シェフによって考案された料理に興味を持ってくれたようだ。では、次は実際に食べてもらわなければならない。一度限りのイベントに終わらせてはいけない。
農業が衰退すると国力が弱くなると言われている。農業界に携わる者としての責任を感じる。変化する市場の要素状況に左右されることのない揺るぎないブランド力を確立したい。そうすれば、きっと山田錦を作っている農家さんのモチベーションアップの一助になれるだろう。
お話しくださったお二人からは、山田錦への深い想いと信頼が伝わってきた。これからも組合で力を合わせ、山田錦の魅力を発信し続けることで、さらなる認知とブランド力の向上に挑む。