創立以来130年余の歴史を刻む兵庫県手延素麺協同組合は、約400軒の組合員を束ね、その生産と販売を一括管理している。手延べそうめんは600年も続く播州の地場産業であり、日本一の生産量を誇る。奈良県の「三輪そうめん」、香川県の「小豆島そうめん」と並び、3大産地として知名度も抜群だ。
そうめんの製造は、もともとは農業の傍らの副業として始まった。家族労働主体の生産体制で品質のばらつきがあった。産地としての信頼と伝統を維持するために、組織化が行なわれ組合が生まれた。
昭和30年代までは全国の米卸店や乾物問屋を中心に量り売りが主流であったが、高度成長期を経て、流通、販売方法が変化し、大手スーパーでの販売に対応した袋入りのそうめんが生まれた。乾麺の保存性、物流のしやすさから、全国に広まっていった。また、日本企業の海外進出に伴う駐在員の広まりと共に輸出も始まり、その後の日本食ブームも相まって海外での販売も拡大してきている。組合のリーダーシップと組合員との強い結びつきを基盤として、時代に合わせて柔軟に進化し続けてきた。歴史を重んじつつ前進し続ける同組合の理事長の井上さん、内山さんに話を伺った。
食生活の変化、多様化につれ、そうめんの位置づけも変化してきた。もはや夏の昼食はそうめん一択の時代ではない。伝統を守りながらも常に新しいそうめんの在り方や価値を追求し、多種多様な食がある現代にも手延べそうめんを選んでもらえるよう、価値の訴求に努めている。その良さは何といっても食べて実感するおいしさと心のやすらぎ。まず最初のひと口を食べてもらうために、機械そうめんとの違いをどうアピールするのか?パンやラーメンやパスタが人気なのはなぜか?もっとおいしい食べ方はないか?海外で試食会を開いたり、そうめんレシピのコンテストを開催したり、ホームページやYouTube、SNSなども活用し、そうめんの食べ方への提案、宣伝、普及など販促活動を行っている。近年では食の安全も見直されるようになり、安全・安心な商品と安定的な供給がさらに求められている。品質の維持向上を第一に、手間と時間のかかる手延べそうめん製造におけるより良い生産体制の確立、新しい機械や方式の導入など生産の面でも改革に取り組み続けている。
父上の跡を継いで役員になり、その後理事長に就任された井上さんは、建設業界で培った経験を活かし、そうめんの生産と販売には品質管理を重要視して、原材料・副資材・製品の品質の製品管理のセキュリティーチェック強化を図っている。全商品が生産者番号で紐づけられたロット管理体制を構築し、倉庫の自動化を実現、トレーサビリティーシステムを確立した。
設備投資は大きな負担となる。リパック(小分け包装)ラインの自動化では、設備機械の開発に当たり、中央会の協力を得、ものづくり補助金を活用した。機械の開発は、地元の会社に依頼。ともに学び、成長、教育し、地場産業を盛り上げ続けることを大切にしている。コロナ禍での急な家庭用商品の出荷量増加に対応できたのも、リパック加工の機械化が進んでいたことが大きかったと振り返る。
海外への進出にも積極的に取り組み続けている。知名度向上と普及のために、アメリカや中国などでの展示会へも参加してきた。中央会のサポートもあり、香港で開催されているアジア有数の食品見本市「Food Expo」へも継続して出展している。アジアの人々は麺好きだ。スープを吸っても弾力を失わない揖保乃糸が評価され、その良さを再認識することとなる。異国で思わぬアイデアに出逢うこともある。現地で展示会を手伝ってくれたことが縁で日本へ招いた従業員は、今では特約店にて海外向けの通販で手腕を発揮している。
安心・安全に食べ続けてもらうために原料にもこだわる。地元の製粉業者と提携し、独自のブレンドとばん砕(粉にする技術)を徹底して守っている。小麦、塩、水、油のみと素材はシンプルであるが、手延べそうめん揖保乃糸は縒りと合わせ、熟成を繰り返し時間をかけて仕上げることで、しっかりとしたコシとつるっとしたのど越しが生まれる。食すると滑らかな舌触りで、消化にも良い。だからまた明日も食べたくなる。
組合では手延べそうめんだけではなく、手延べひやむぎ、手延べうどん、手延べパスタ、手延べ中華麺も製造されている。揖保乃糸商品で乾麺売り場をバラエティ豊かにし、幅広いお客様にあらゆる角度から「手延べそうめん揖保乃糸」を知ってもらい、ひいては「そうめんやっぱり揖保乃糸」と思っていただけるファンづくりの窓口を広くするためだ。長い歴史を歩んできた「手延べそうめん揖保乃糸」に革新をくわえながらも大切に守り繋いでいく。ブランドを守るため値下げは行わない。最後に「高いけど買って食べてみてくれたらわかる!」と笑顔で話された。