3代にわたり60年続く伊藤牧場は、今では明石市藤江地区でただ一つの牧場だ。駅から徒歩圏内で、近くには小学校や幼稚園もあり、自転車やバイクでも立ち寄れる。身近で牛に会える牧場として地域に溶け込んで営まれている。
3代目の伊藤靖昌さんは、市街地で生き残る牧場としての存在意義、在り方について向き合い、自前の新鮮な牛乳を使って、何か喜んでもらえること、地元の役に立つことをしたいと考えていた。そんなときに紹介されたのがジェラートだった。
奥様の美喜さんと二人でジェラートを食べ歩き、同じような牧場を訪ね歩いた。一からジェラートのことを学び、2013年に牧場に隣接する土地を新たに求めて「ぐらなーと」をオープンさせた。
ジェラートの開発、製造、販売は美喜さんが受け持たれている。牧場を運営する靖昌さんと協力し合い、牛が居て、その隣でジェラートを作っていることを大切にしている。これ以上ないほど新鮮な牛乳を素材に、地元産の食材を掛け合わせ、季節ごとに工夫したバリエーションを展開する。すべてがミルクベースであることも特徴だ。
お店をオープンすると、地元のイベントへ積極的に出かけるなど地道に宣伝に努めた。地元の方に食べてもらい、口コミでじわじわ広がればよいと考えていた。土地を購入したり、海外製の機械を導入したりと経費がかさむため、なかなか宣伝に資金をかけることができないのも事実だった。
うれしい偶然もあった。住宅地にある牧場の若い牧場主夫婦がジェラート屋さんを始めたということが話題を呼び、テレビや新聞の取材を受けることが増え、遠方からもお客さんが来てくれるようになったのだ。
靖昌さんが中央会 今橋と中学校の同級生だったことが、中央会との付き合いのきっかけとなった。
販路開拓や業務効率化に利用できる小規模事業者持続化補助金を受けることをアドバイスされ、採択された。せっかくイベントに行くのだから目立ったほうが良い。補助金を利用し、トラックをラッピングして宣伝を兼ねた移動型店舗が出来上がった。お客さんがゆっくりできるようにと、コンクリート敷きだったお店のエントランス部分をウッドパネルを敷き詰めたくつろぎ空間にした。
産学連携の取り組みに協力し、職業訓練校の生徒さんとホームページを作り上げることもできた。また、中央会主催のひょうご特産品フェアにも参加した。
中央会は、支援の幅も広いが、支援先のバリエーションも豊かで、ネットワークが広いのが特徴だ。同級生なので相談しやすいこともあって何でも聞いてみるという。持ち掛けると何か提案が返ってくるのがありがたい。
地域とのつながりに感謝し、大事にしている。店には手作り小物やハチミツなど地元の方や友人が作ったものも並ぶ。牛乳にアレルギーのある子供たちにも楽しんでもらえるよう、食べられるお菓子を用意して備えている。イチゴ、トマト、海苔、そしていかなご…明石産の食材にこだわった商品開発に力を入れてきた。その変わらぬこだわりに、地元の農家さんからコラボレーションのお誘いがかかる。
冬に嬉しいジェラートの提案を企画されていたり、友人作のバームクーヘンとのコラボレーションも進んでいると聞いた。開発には思わぬ失敗もあったりで苦労の連続だが、それを語る美喜さんはどこか楽しそうで、周囲の協力も得て着実に夢を実現されていることが伝わってきた。