丹波ゆめタウン(旧称 氷上ゆめタウン)は、1996年(平成8年)、北近畿最大級のショッピングセンターとして誕生した。地元企業の出資からなる氷上商業開発株式会社と、地元丹波市との第三セクター方式による株式会社タンバンベルグの両社により施設の管理・運営を行っている。広大な駐車場を備えた敷地内には、大型店舗と専門店街からなるショッピングセンター、音響・映像設備が整った総座席数300の「ポップアップホール」、会議やセミナー、カルチャースクールなどに利用できる「文化教室」、市民活動を支援する「丹波市市民プラザ」があり、市民の様々な活動の拠点となっている。
このたび、中央会の支援で「連携組織活路開拓調査・実現化事業」を利用し、ポップアップホールの収益化と有効活用に取り組まれた。代表の土井さん、今回の事業を主導した松山さん、岸さんにお話を聞いた。
日本全国の地方都市の例に漏れず、ここ丹波市も、人口減少、少子高齢化問題を抱えており、オープン当初は取り立てて宣伝をしなくても人が押し寄せていた丹波ゆめタウンも、客数の減少は否めない。加えてネット通販の台頭もあり、集客が大きな課題となっている。
以前のアンケート調査で、映画館を望む意見が、特にシニア層や子育て世代から多く出ていた。この地域には今や映画館がなくなってしまっている。映画館を一から作るとなると莫大なコストがかかるが、ここにはポップアップホールがある。同ホールも、現状では充分に機能を活かしきれているとは言いがたい。ホールにお客さんが呼べれば、ショッピングセンターへの流入も見込める。25周年となる2021年を目前に、施設全体の活性化の起爆剤としてホールの活用と収益化を実現したいという機運が高まり、映画上映会の開催が決まった。
「ポップアップシネマ」と愛称も決まり、準備が始まった。2019年12月のことだ。演目は「二宮金次郎」に決定。シニア層にとっては、小学校の校門に必ずあった金次郎の銅像は馴染み深い。何より、金次郎の「報徳」という思想を名前に残す「葛野報徳自治会」が地元氷上町に存在するという縁があり、この映画が選ばれた。
上映日を3月28日と決め、着々と準備が進められた。その矢先、コロナ禍が世界を襲う。日本でも感染者が増え始め、緊急事態との呼び声も高まる中、多くの人を集めての上映会はやむなく中止に追い込まれた。
開催準備を進める中で、確かな手ごたえを感じていた松山さんは、このまま上映会がなくなってしまうのはもったいないと声を上げた。それなら、逆手をとって、コロナ禍での映画上映はどう行えばよいかという方向に切り替えて企画しなおそう。中央会の支援を受け、収益化に向けた情報収集のための実験が始まった。
地元の皆さんの声を聞く情報収集が主目的であり、アンケート調査への協力を願う代わりに無料で鑑賞してもらうという形をとることとなり、兵庫県北部地域に唯一存在する映画館「豊岡劇場」の監修を受けて計画を進めたが、開催までの道のりは平たんではなかった。第1回目として8月上映を目指していた「この世界の片隅に」が戦争を扱った内容であったため、8月という時期の上映に待ったがかかり断念。また、閉鎖空間での上映が感染リスクを高めるのならと、ドライブインシアターが検討された。施設内の大型店舗の立体駐車場を使う計画で、演目も日程も決まっていたところが、今度は興行権の問題にぶつかり頓挫。紆余曲折を経て、2020年11月14日、ようやく「ぼけますから、よろしくお願いします。」の上映に漕ぎつけた。
丹波市と丹波市教育委員会の後援も得られ、作品自体もテレビなどで話題になった注目作品だったこともあり、告知2週間後には予約で満席になるほどの人気となった。コロナ対策で収容人数を半分に減らし、朝昼夜と3回上映を行った。予約があったうち、90%のお客さんが実際に鑑賞。うち90%からアンケートが回収できた。
2回目の「すみっコぐらし」も小さな子どもを連れた親御さんが参加しやすいよう工夫を凝らし、好評を得た。3回目「伊豆の踊子(吉永小百合版)」を上映した2021年2月は、2回目の緊急事態宣言下であり、対象者がシニア世代であることからも開催を危ぶまれたが、感染対策を万全にして決行。それでも40%ほどの来場者があり、コロナ禍での映画の可能性を実感。
感染対策あっての上映であり、お客さんの誘導にも多くのスタッフを導入して細心の注意を払った。何度か上映するうち、段取りも良くなり、スタッフの経験値も上がって、安全に効率よく運営できるようになった。アンケート調査からはいろんなことが見えてくる。寄せられた声を活かし、実践経験を活かし、この事業を調査研究だけに終わらせないために、お金を払ってでも観に来てもらえるような企画を、定期的に続けていく予定だ。
丹波ゆめタウンに来たお客さんから「次のポップアップシネマはいつですか?」と聞かれるたびに嬉しく感じ、また責任を感じている。まずはゴールデンウィーク中の開催を目指して、準備を進めている。神戸からだと車で1時間ほどの距離だ。他にはない個性的な上映会が話題を呼び、いつか近い将来に「今日はちょっと丹波まで映画を観に…」というスタイルができることを願ってやまない。