エステサロン「エムズ」代表の山本マサ子さんは、このたび、中央会の支援のもと「Makuake」にて、新商品「焙煎玄米マドレーヌ」でクラウドファンディングに挑戦された。エステ経営とお菓子のマドレーヌ…どう繋がっているのだろう…その辺も含めてお話を聞いた。
男女共同参画社会が謳われて久しいが、果たして女性は男性と同等に活躍できているのだろうか。ライフステージが、就職、結婚、出産、子育てを経て、親の介護へと進むにつれ、家庭内において女性の果たす役割が大きくなるのが現実で、大多数が社会参加に時間と体力を思う存分注げていないのではないだろうか。出産を機に一旦は仕事を辞めた山本さんだったが、持ち前の好奇心と行動力をもって、家事と育児をこなしながらもその時の状態に合わせて仕事を続けてこられた。その中で、11年にわたり、地元明石のミニコミ誌の取材や編集の仕事に携わった。いろいろな職業、立場の人の話を聞く機会も多く、トップに立って長く仕事を続けている女性たちが、素敵に輝いていることに感銘を受ける。いつか自分もそうなりたいと強く思うようになった。
自分も代表となって輝く!そう決めた山本さんは、商工会議所の主催する創業塾で勉強を始めた。最初は何をやるかも決まっていなかったが、創業塾で学ぶ中で、エステサロンをやると決めた。もともと美と健康には興味があり、仕事も関連のあるものを選んで知識を蓄えてきた。何よりエステサロンへ行くのが好きだったし、サロンをやっている人から向いていると言われたことも決め手となった。
創業塾では、実際に事業計画を立て、国民金融公庫に融資を願い出ることをシミュレーションして卒業となる。山本さんは、融資を受けるチャレンジに見事合格した。メインは主婦として生活してきた山本さんにとって、ここでいわば経営者としての適性が認められたことは大きな一歩となった。
業種を決めたものの、エステティシャンやセラピストの経験はなかった。だが、持ち前の推進力と熱心な努力とで、独学で技術を習得。競合する他店の分析をもとに差別化を図ることとし、理想とする店舗の良いところをまねることから始めた。起業を決めてから1年後、開店に漕ぎつけた。
サロンは、近隣の女性がターゲットである。自身の生活圏内で店舗を借り、素の自分を出して安心してもらうことを心がけた。宣伝は大手のフリーマガジンなどには頼らず、SNSとチラシを活用。SNSの知識もセミナーを利用するなどして身につけ、学んだことはすぐに実践した。他店との差別化のために営業時間は長かったが、予約のない空き時間を活用するなど工夫して家事もこなした。
5周年を迎え、何か記念のものをと考えたのが商品開発を始めるきっかけとなった。兵庫県のよろず支援拠点に相談し、少量生産に対応してくれる化粧品会社を紹介してもらった。その化粧品会社の得意分野だったことから、オリジナル商品第1弾として米ぬか成分を原材料とする入浴剤を開発。サロンに来てもらうだけでなく、家でも継続して身体を労わってほしいという願いを込めた商品だ。続けて玄米を使ったカイロも開発。よろず支援拠点の紹介で兵庫県立工業技術センターに試験を依頼し、客観的な数字でその効能を訴求した。
そのころ、走り続けてきた自身も初期の乳がんを患い、食事や働き方を見直すこととなった。美容と健康を叶える玄米食の良さを実感し、お客さんへもよく勧めていたが、炊飯の煩雑さなどから継続が難しい。手軽に取り入れたいと策を練るうち、玄米茶に入っている炒った玄米に行き当たったことで、有機焙煎玄米αや有機玄米黒茶が生まれることになる。
玄米の焙煎工場を自力で探し、交渉。協力を得て開発に成功する。原材料にもこだわり、兵庫県産の有機栽培米「コウノトリ育むお米」と出逢う。産地に足を運び、コウノトリ育むお米に携わる人たちと交流を深め、兵庫県の地産地消に尽力する意味や喜びにも気づく。
よろず支援拠点の助言もあり、有機JASの認定を受け、五つ星ひょうごにも選定された。さらにはひょうごの美味(うま)し風土拡大協議会の事業を利用してフランス(パリ)とドバイでプロモーションを行い、好評を得た。今も継続して注文が来るという。
コロナ禍の影響もあり、安全で安心、そして、環境にも人にもやさしいSDGsに叶った食品に高評価が集まっている。スーパーフード、グルテンフリー、低GIなどという言葉もよく聞くようになった。お客さんと自分の健康のため、そして地元兵庫の地産地消のために開発した有機焙煎玄米αだったが、まさしく時代に合った食べ物だったことに気づかされた。さらに、フランスではそのまま食べるだけではなく、ナッツやゴマのように料理に加える食材としても注目された。商品の写真撮影で、アイスクリームにトッピングしているのを見て、デザートにも使えるということも教えられた。周囲からの評価や反応が、次々と新しい発見へとつながった。
コロナ禍でプロモーションなどに難儀することも多い中、コロナ対策として兵庫県が実施したがんばるお店・お宿応援事業を通じて中央会を知った。すると、中央会でクラウドファンディングの支援を行っているという。周囲からの勧めもあり早速応募し、時代に合った新規性があること、起業後あまり時間が経過していないことなどが功を奏し、採択された。
プロジェクトに出す新商品として、有機焙煎玄米αを使って身体に良くて罪悪感なく食べられるスイーツを作ることを思い立ち、五つ星ひょうごで共に採択されたシェフに協力を願い出た。そしてマドレーヌが生まれ、Makuakeで目標金額を大きく超える応援を得た。
審査の厳しいMakuakeに出ることを許されたことで、信用と評価が増し、関東方面や大手の取り寄せサイトからも声がかかった。一流ホテルや食品メーカーとのコラボレーションも実現し、フランスに続いてドバイへの出展も決まった。周囲の評価、反応が相乗効果を呼び、商品が独り歩きを始めている。マドレーヌに使用した有機焙煎玄米のミクロパウダーを、材料としてメーカーへ卸すBtoBの販売にも力を入れたいと考えている。
考えたことを実現する過程で、疑問や壁に遭遇するたび、フットワーク軽く支援機関に相談したり勉強会に参加したりしてきた。そして得たことはすぐに実行に移す。そうすることで、必要な時に、必要な知識や方法が見えてくる。これからは、さらに自身のブランディングに取り組む必要を感じている。経営者としての顔を確立し、そのネットワークを使って地域や社会の役に立ちたい。自身の介護の体験も活かし、住みよいまちづくりに貢献したい。
中央会には、その広いネットワークと知識で支援してほしい。挑戦したいことはまだまだキリがないようだ。